現在、私たちは気候変動という大きな課題に直面しています。欧州委員会は、この解決に向けて、2050年までに温室効果ガス排出が実質ゼロとなる「気候中立」を達成するという目標を掲げ、2019年12月に欧州グリーンディール政策を打ち出しました[1]。
欧州グリーンディール政策の主な目的は次の通りです:
- より環境に優しいエネルギー供給
- 循環型経済への移行
- 建築物の省エネ化
- 自然に配慮したスマート交通システムへの迅速な移行
- 生態系と生物多様性の保全と回復
- 気候変動への適応
- 健康の保護
この政策を支えるべく、2020年5月には、欧州委員会は「農場から食卓まで」構想も発表しました[2]。この構想のもとで、食品安全性の向上が目指されるほか、次の取り組みも進められています:
- 地球環境の許容範囲内で、栄養豊富な食料を廉価で確保する
- 農薬と肥料の使用量および抗菌剤の販売量を半減する
- 有機農業の対象となる作物を多様化する
- 食料消費と食生活の健全化を促進
- 食品ロスと廃棄の削減
- サプライチェーン上での食品偽装の撲滅
- 家畜の福祉向上
欧州の農業と食料供給において、畜産は重要な役割を担っています。家畜による環境や気候への影響を低減するべく、EU全体で自然と調和した畜産に向けた取り組みに重点が置かれています。
この一貫で、獣医療の規制が改正され、家畜に対する抗菌剤の投与が制限され、その販売もより厳しく監督されることになりました[3]。
EUにおける家畜の福祉は、次に掲げる「5つの自由」という原則により守られています[4]:
- 飢え・渇きからの自由
- 不快からの自由
- 痛み・傷害・病気からの自由
- 本来の行動がとれる自由
- 恐怖・抑圧からの自由
家畜の福祉を向上することで、畜産品の品質は向上し、薬剤を家畜に投与する必要も少なくなり、生物多様性の保全にもつながります。家畜がより安心できるよう、欧州委員会は、輸送と屠畜についても法令を改正しました[5] 。たとえば、屠畜される家畜ごとに、保健当局の認定獣医による衛生証明書の発行や投与した獣医薬品を記載したフードチェーン申告書の提出が求められることになりました。委員会はまた、温室効果ガス排出を削減し、水質・大気汚染を抑制すべく、自然と調和した画期的な飼料添加物の市場流通も促しています。