牛肉業界は大変革の時代を迎え、さまざまな課題に直面していますが、それが新たな商機にもつながっています。業界サイトがまとめた牛肉の国際取引の最新統計と見通しを分析しながら、今後の動向を探ってみましょう。
世界での牛肉生産と輸出動向
米国農務省(USDA)の予測によると、2024年の世界の牛肉生産量は5910万トンと前年からわずかに減少する見込みです。国別では、米国(6%減)、アルゼンチン(3%減)、カナダ(5%減)で減少が予測される一方、ブラジル(2%増)、中国(4%増)、インド(2%増)では増加が見込まれています。また、欧州委員会の試算によれば、EUの牛肉生産量は640万トンとなり、前年比で0.5%の減少が予測されています(出典:ec.europa.eu)。
2024年の世界の牛肉輸出量は、前回の予測を1%上回る1210万トンに達する見込みです(出典:usda.gov)。EUでは、牛肉輸出量が10%増加する一方、輸入量は35万トンと3%減少すると予測されています(出典:ec.europa.eu)。
米国食肉輸出連合会(USMEF)によると、2024年の世界における牛肉の販売額は23億1000万ユーロと、前年同期(第一四半期)と比較して1億2200万ユーロ、すなわち5.6%増加となりました。加工製品を含む牛肉の輸出量が4.5%減少し、31万1800トンにとどまっているだけに、この販売額の伸びには重要な意味があるとみられます。EU向けの販売量は2割以上減少し、わずか3760トンにとどまりました(出典:topagrar.pl)。
世界におけるポーランドの役割
2024年初の5か月間において、ポーランドの生体牛輸出量は前年同期比で25%減少し、4600トンにまで落ち込みました(出典:ing.pl)。
2024年7月時点でのポーランドの牛の買付価格は1キログラムあたり10.39ズロチと前年同期比で7.6%上昇しました。専門家は、2025年末までに買付価格が1キログラムあたり10.60ズロチに達すると予測しています。この先、価格は数四半期にわたって高止まりしつつ、供給量の緩やかな減少に対する需要の反応によって変動すると考えられます(出典:agroprofil.pl)。
2024年には、ポーランドでブルータングウィルス(BTV)感染が確認され、牛肉業界に深刻な影響を及ぼしました。中国、ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンなどの国々は、ポーランド産の生体牛および動物由来製品の輸入禁止措置を導入しました。これにより主要な輸出先を失ったポーランドに追い打ちをかけるように、ロシアはポーランドの生体牛の通過輸送(トランジット)を禁止しました(出典:wiescirolnicze.pl、topagrar.pl)。これらの規制措置により、国内市場で供給過剰となる牛肉の価格は下落すると予想されます。しかし、BTVワクチン接種や貿易交渉により、輸出再開と世界市場における信頼回復が期待されています(出典:wiescirolnicze.pl)。
ポーランド食肉産業生産者・雇用者連盟(UPEMI)およびPekao銀行の分析によれば、ポーランドの食肉産業は世界において競争力を高め、世界上位10か国に格付けされています。その市場価値は1000億ユーロ超に達すると推定されています(出典:bankier.pl)。
アジア市場の動向
2024年には、EUから日本への牛肉輸出が大幅に増加しました。これには、2019年2月に発効した日EU経済連携協定(EPA)が大きく貢献しています。同協定により、貿易手続きが簡素化され、関税が引き下げられ、EU産牛肉の日本市場における競争力が強まりました。EU屈指の輸出国であるポーランドも、特に冷凍牛肉で対日輸出を伸ばしています(出典:agropolska.pl)。
また、香港もEU産牛肉の重要市場です。所得増加と消費者意識の高まりを反映し、より上質な牛肉の需要が高まり、現地の小売チェーンは厳格な基準を満たすEU産牛肉の調達を強化しています(出典:beeffrompoland.pl)。
技術革新
2024年に、養牛農家は生産効率の向上と牛への配慮を充実させるべく、新技術の導入を進めました。先進国では、搾乳や給餌のプロセスを自動化する動きが加速しています。搾乳ロボットや精密給餌システムは、ブラジル、オーストラリア、EUを中心に普及し、生産性を高めると同時に牛のストレス軽減に寄与しています。また、センサや歩数計などの装着により、健康状態を把握することで、疾病の早期発見が可能となり、損失の軽減や抗生物質使用量の削減にも貢献しています(出典:globalagritrends.com、eurotier.com)。
世界的な課題である、持続可能な畜産も技術革新により実現されつつあります。カナダやニュージーランドでは、メタン排出量測定システムが導入され、畜産における温暖化効果ガス排出削減が進められています。さらに、ヨーロッパでは、レーザー治療や超音波療法などの代替治療法が注目を集め、抗生物質の投与削減につながると期待されています。消費者の環境意識の高まりを受け、農家も生産技術の認証取得を急いでいます(出典:mla.com.au、europeanlivestock.org)。
また、世界の展示会では、最新技術の紹介がますます重要な役割を果たしています。2024年にハノーファーで開催された酪農・畜産機械展「EuroTier」では、世界各地の出展者が先進的な畜産システムを披露しました。特に、日本や韓国からの革新的な技術は、プレミアム品質の牛肉生産に焦点を当て、大きな注目を集めました。世界ではこの先10年で、家畜の健康把握、自動化、環境配慮技術への投資が不可欠になると予想されます(出典:eurotier.com、agrifoodtechreview.com)。
2025年の展望
米国農務省は、2025年に世界の牛肉生産量は6090万トンと約1%減少すると予測しています。特にブラジル、EU、米国では、生産量の減少が予想されます。米国では、牛の飼養頭数の減少を背景に、生産量が約4%減少、ブラジルでは、2年連続で牛の飼養頭数が減少し生産量も約1%減少、そしてEUでは、経済不振と規制の見通しが立ちにくいことで投資意欲が削がれ、生産量が約1%減少すると推定されています。一方で、アルゼンチン、オーストラリア、インド、メキシコでは、生産量の増加が見込まれています(出典: agronomist.pl)。
クレディ・アグリコル銀行調べによると、EUでは牛肉の輸出需要の増加と供給量の減少に伴い、牛の買付価格は引き続き上昇傾向にあるとされています。高い収益性が維持されているにもかかわらず、生産量は減少傾向にあります。規制の見通しが立ちにくい中、畜産への関心が低下し、後継者不足が深刻化しているためです。こうした背景から、数四半期にわたり牛の買付価格は高止まりしつつ、供給量の緩やかな減少に対する需要の反応によって変動すると考えられます(出典: credit-agricole.pl)。