世界屈指の牛肉輸出地域であるEUは、消費者の健康を守り、家畜と環境にも配慮して品質基準を高く維持することで、地元はもちろん、日本と香港をはじめとする世界各地でも揺るぎない定評を確立してきました。
EU産牛肉の確かな品質を支える基準
牛肉の品質は、屠畜前は品種、性別、月齢、給餌、養牛体制、そして屠畜後は冷却、解体、包装、保存、熟成などといった要因に左右されます1。このため、格別の風味、柔らかさ、栄養価を維持すべく、EUでは養牛と牛肉生産において厳格な基準が守られています。
EU産牛肉の高い品質と安全性を守るべく、域内ではさまざまな法規制が導入されています。この柱となっているのが、家畜への思いやり、徹底した生産工程の管理、そして消費者が牛肉の出所を把握できるための追跡可能性(トレーサビリティ)です。
家畜への思いやり
EUでは、家畜の福祉を守ることは、肉の品質も左右するため、養牛においては5つの自由、すなわち飢え・渇き、不快、痛み・傷害・病気、恐怖・抑圧からの自由と本来の行動がとれる自由を確保するための規制が守られています2。具体的に牛舎では、最低気温、最適な気温と湿度、適度な気流と明るさ、牛房の十分な広さが確保されなくてはなりません。また天然飼料と新鮮な水も摂取できる環境で然るべき技能を持つ担当者による世話が求められます。これにより、肉の品質が向上するだけでなく、家畜と環境に配慮したEUの畜産に対する認知度も高まります。
生産工程の管理
養牛から屠畜、そして流通まであらゆる生産段階で各工程を常に監督することにより、牛肉の高い品質と衛生基準が維持されています。牛の苦痛を最小限に抑えるべく、屠畜と輸送についても細かい要件が定められています。
食肉の識別と追跡
高い品質が守られていることを消費者自らが確認するうえで大切となるのが、食肉の識別と追跡です。EUではラベル表示により、食肉の出所を確認できる制度が整備されています。これにより、何らかの危険を特定し、回収することで健康被害を防ぐこともできます。
より詳しくは「品質と安全基準」をご覧ください。
品質管理で求められる制度と認証
品質基準を守るためには品質管理制度の整備が不可欠です。いずれのEU加盟国でも、欧州グリーンディールと農場から食卓まで戦略の下で一貫した枠組みが導入されています3。EU産牛肉の品質と安全性を守るうえでは、特に次の制度と認証が重要な役割を担っています。
- ハサップ(HACCP)は、必須管理点において、危害要因を洗い出して取り除くために食品産業では導入が義務付けられているシステムです。正しく運用することで、食品衛生を管理して、安全基準をしっかり守ることができます。
- IFS(独仏伊の小売連合)とBRC(英国小売協会)が運営する食品安全規格による認証は、ハサップの正しい運用とヨーロッパの食品規制を順守していることを証明するべく、生産者が自主的に取得しています。
- ポーランドのQMP(英:Quality Meat Program)の下では、牛をいたわりつつ、肉牛の品種を正しく選定し、冷凍や注入といった人工処置を加えずに牛肉の優れた品質を維持する業者が認定を受けています。
- 適正農業規範(GAP)、 適正衛生規範(GHP)、適正製造規範(GMP)は、いずれも優れた生産体制の維持に寄与しています。GAPは環境保全と持続可能な養牛を促し、GHPは生産設備と従業員の衛生管理を徹底します。そしてGMPは、常に生産工程を評価しながら原材料の高い品質を維持します。
- 適正試験規範(GLP)は、食品の成分の試験や観察により品質と安全性を守るための試験所での試験のあり方を定めています。
- 国際標準化機構(ISO)は、製品やサービスの品質、安全性、生産性についての要件を統一しています。食品産業では、ISO 22000シリーズなど各種ISO規格により食品安全を確保する流れが標準化されています。
このほか、EUでは有機食品に緑の葉マークが表示されています。保護原産地呼称、地理的表示保護、伝統的特産品保護の各制度では、地域ならではの食品を差別化すべく認定をうけることができます。
牛肉の品質と安全性を高く維持するこれらの制度と認証は絶えず監督されており、法規制に違反があった場合は食品・飼料早期警戒システム(RASFF)を通して通告されますので、消費者からも信頼を集めることができるのです。
EU産牛肉の日本・香港向け輸出
欧州議会および欧州理事会規則(EC)第178/2002号の第12条は、「EUから域外への食品輸出は、輸出相手国当局または同国の法令、執行規則、法規範、実施規則、法的手続き、行政手続きが別途定めない限り、食品法に則ること」と定めています4。したがって、日本と香港向け輸出の際は、地元の細かい品質・防疫要件も遵守する必要があります。
日本の場合、EUからは月齢30か月以下の若牛の肉と内臓のみ輸入を認めています。日EU経済連携協定が発効したものの、これら製品の輸出は、日本の防疫当局と別途で取り決めた条件で進める必要があります。日本向けに牛肉を輸出する業者は、輸出証明プログラム(英:Export Verification Programme – EVP)の要件も満たす必要があります。
これに加え、認定を受けてリストに登録された業者だけが、牛肉と牛内臓肉の衛生証明書を取得して初めてそれらを輸出することができます。また牛タンをはじめとする日本向け特定部位に対しては、切除手順について別途要件が定められています。
EUから香港への輸出の場合は、条件はより簡素です。EU域内での取引認定をすでに受けていれば、香港への輸出に際して別途の認定取得義務を課せられることはありません。ただし、香港への牛肉輸出が認められたEU加盟国を原産地とする牛肉のみを用いた製品だけしか輸出できません。
香港まで牛肉は、適切な条件下で、0~4°Cに冷蔵または庫内温度-18°C以下に冷凍して輸送されなければなりません。また、欧州委員会と香港当局の取り決めにしたがい、輸送ロットごとに輸出申告兼衛生証明書の提出が求められます。
- Cieślakowska K. „Program dla wołowiny. Czynniki wpływające na jakość wołowiny” ブルビヌフ農業経営相談セ
ンター ・ラドム支所 オンライン資料 2021年 [2024年 10月 5日 オンライン 閲覧 ] ↩︎ - 1998年 7月 20日付け家畜保護に関する 欧州理事会指令 98/58/EC EU官報 L.1998.221.23 [2024年 10月 5日オンライン閲覧 ]. ↩︎
- 食品の生産と流通の各段階で 安全性をしっかりと維持するための 枠組みとして 導入された「 衛生パッケー
ジ 」 により、食品の生産に関わる業者には、衛生管理に対する直接的な責任が課せられています。 ↩︎ - 2022年 1月 28日付け 食品法の一般原則と要件を規定し、欧州食品安全機関を設立し、食品安全に関す
る手続きを規定する 欧州議会および欧州理事会規則( EC)第 178/2002号 EU官報 L.2002.31.1 [2024年 10月 5日オンライン閲覧 ] ↩︎